ページをめくろう。

ブックエンドが欲しいと思っていました。棚の上の本の列がしばしば倒れてしまっていたからです。

製品の条件は簡単です。本の列が倒れるのを防げるほど重い事、そして本の横にあって違和感のないもの。とても簡単ですが、考えれば考えるほどデザインは難しいと感じました。なぜなら、重いものは身の回りにいくらでもありますし、例えば大きな辞書でもブックエンドになるなら、わざわざ製品として作る必要はないからです。

本の列を倒さないためだけなら、どんなに気の利いたデザインをしてもただのインテリアになってしまうと思われました。ブックエンドが持つべき、それ以上の機能はないのでしょうか。そこで私たちは最初から、つまり「本」というものの成り立ちから考え始めました。グーテンベルクの印刷技術の発明から始まり、情報伝達という意味でテレビやインターネットに取って代わられるまで。

かつて本は革命を起こすほどの力を持っていました。それは情報伝達のためにその時代の中で本が最も優れた道具だったという事に他なりませんが、それでは現代社会では本は重要ではないのでしょうか?情報伝達のための道具という意味では、残念ながらかつてのように重要でないことは明らかです。電波やケーブルを使った発明のおかげで、私たちは格段に速いスピードで情報を得る事が可能になりました。しかし、「大切」という意味でなら、かつてと変わらず重要なのだと思います。

私は「人生を変えた一冊」を持っています。青春時代、自分が求めいてたものがそこに書かれているのを読んだ時の感動。それは一生忘れる事ができません。しかし、それはやはり、ページを読み進むという能動的な作業の中でおこった事であり、静けさの中、あるいは雑踏の中、自分の指でめくったページの先に感動がありました。たとえばインターネットやテレビでそれらを知った場合、全く同じ内容だったとしても、あの時のような感動を得る事はないでしょう。

Read Me のデザインアイディアが生まれた時、私たちはこのような本の重要性について思いを馳せていました。そして「大切」な本を手に取って、ぐるぐる眺め回しているうちに、圧倒的に単純な事実に気が付いたのです。それは、複数の本を並べたときに私たちが見ているのは本の横顔にすぎないという事でした。本の顔は、表紙なのです。

本の列を倒さないために、一冊の本を前向きに置く事ができればいい。ただ、それだけでした。このアイディアが出た時、私たちはそれ以上の形状デザインは必要ないと感じました。 こうしてただのL型の底を斜めに切り取っただけの Read me の簡単な形が生まれたのです。

紙ずれの音と感動はいつか終わってしまうのでしょうか。人類がいつまでも紙の上の文字を読んでいる事を願って。さぁ、ページをめくりましょう。

デザイナー:寺尾玄