使い方の発明

コンピュータデスクの下の混乱に関しては、説明はいらないと思います。絡み合ったケーブルやACアダプターの束。床に配線処理のシステムが埋め込まれたオフィスでないかぎり、世界中のほとんどのワークデスクの下は目も当てられない状態になっている事でしょう。

私はこの「混乱」の状態を何とかしたいと、長い間考えていました。電線を中にしまえる様にした電源タップのアイディアを特許出願したり、ACアダプターの束を入れる箱を作ってみたり。しかし、どうしてもこれを作らなければいけないと思えるほどのアイディアはひとつもありませんでした。Colonyのアイディアに出会うまでは。

Colonyのアイディア。実は、このきっかけを与えてくれたのは、ひとつの古い火鉢でした。数年前、私は祖父母の家の納戸で使われていない火鉢を見つけました。大型の磁器製のものでしたが、何か気になって、これを持ち帰りました。そして炭と灰を用意し、火鉢として使ってみました。灰の量や炭の質もあるのかもしれませんが、その暖まらない事と、部屋が煙たくなる事には閉口しました。現代の暖房器具はなんと良くできていることでしょうか。

その後、この火鉢は中をきれいにして、部屋の片隅に長い事、置かれていました。そして、ある日。なぜ、そんな事をしたのか、あまり憶えていません。特に製品のアイディアを考えていたわけでもありませんでした。ただ、ソファに座っていると、机の下の絡み合ったアダプターと線、その向こうに火鉢が見えていたのです。そして、何となく入れてみたのです。

アダプターとケーブルを火鉢の中に入れ、少し離れたところから見た瞬間に、これこそが「混乱」を解決するために求めていたアイディアだと、はっきりと感じました。今までそこにあった「混乱」はどこにもなく、ただ、火鉢が端座しているのです。その時、この古い火鉢は、本来の目的ではないにも関わらず道具としての機能を十分に果たしているように見えました。

また、ケーブル類を入れる時、出す時の設置する行為の簡潔さにも、とても好感を持ちました。なにしろ放り込むだけなのですから。火鉢が教えてくれた、Colonyの核となるアイディアは、道具(物)の発明ではなく、使い方の発明だったのです。

それまで、試作した「箱」は、どんな形状にしても、汚いものを隠すという意味から抜け出す事ができませんでした。隠すだけなら、ただのごみ箱になりかねません。そこから先の、道具としての魅力を付与する事が出来ませんでした。火鉢にアダプター類を入れた時、私は強い魅力を感じました。しかし、それは、単純に磁器の持つ重量感や美しさから来るものだけではありませんでした。磁器製の容器が持つ、歴史こそが魅力の原因になったのです。

土から作られた容器、陶磁器は道具として非常に長い歴史を持っています。最初は瓶や壷として、川から水を運ぶために使われたのでしょうか。大航海時代には、欧州の人々は争って東洋製の磁器を求めました。日本でも大陸からの大型の磁器が観賞用として人気を博した事があります。もちろん、食器、花器としても使われ、前述の火鉢の様に、暖房の道具としても使用されてきました。

このような人間が慣れ親しんだ道具が、21世紀、全く新しい使われ方をしている。私がアダプター類を入れた火鉢を見た時に最も強く感じた魅力は、この事だったのです。こうしてColonyという製品のアイディアが生まれ、デザイン、制作が開始されました。放熱のための空気の対流を発生させるため、底に吸気口を設けました。また、壁のコンセント行きのケーブルが出るための穴が側面にひとつだけ開いています。

Colonyの形状デザインは、あくまでもクラシックな花器や壷から離れず、かつ紛れもなく現代の道具であるという事を表現しています。そして、日本最高レベルの品質を誇る工場で製造する事によって、なめらかで、映り込みさえ美しい仕上げを実現しています。

古くからの道具の全く新しい使い方。バルミューダデザインの社内では、全てのワークテーブルでColonyが使用されています。そこには、本来あるはずの絡み合ったケーブルもACアダプターの束もありません。ただ、古くからの美しい道具がひとつ置かれているだけなのです。

デザインディレクター/寺尾 玄